Column コラム

Vol.44【「暴力団排除条例」の基礎知識/知らなかったでは済まされない!企業の法的責任(第1号)】

はじめに

「被害者」という言い訳が通用しない時代の到来

近年、企業のコンプライアンス遵守は当然の義務となりました。しかし、その中でも「反社会的勢力との関係遮断」は、他のコンプライアンス項目とは一線を画す危うさを持っています。ハラスメントや軽微な法令違反であれば、是正と誠意ある対応によって再起の道が開けることもありますが、暴力団との関係は別です。一度のミス、一度の判断の甘さが、企業の息の根を止めるほどの致命傷となります。

2026年現在、私たちは「暴力団排除条例(暴排条例)」が完全に浸透した社会に生きています。かつて、企業は不当要求を受ける「被害者」として守られる側面がありました。しかし、現在の法制度下では、暴力団に資金を供給したり、彼らの活動を助長したりする企業は、厳しい社会的制裁を受ける「当事者」へと立場が変わりました。

本号から3回にわたり、中小企業がこの荒波の中で生き残るための「暴排対策」を、実務的な視点から徹底解説します。第1号となる本稿では、全ての防衛策の根拠となる「暴力団排除条例」の正体と、従来の法律との決定的な違い、そして経営者が背負うべき重すぎる法的責任について深く掘り下げます。


LINEUP1 「暴力団対策法」と「暴力団排除条例」は何が違うのか?

まず経営者が正しく理解しなければならないのは、暴力団を規制する二つの大きなルールの違いです。ここを混同していると、自社のリスクがどこにあるのかを見誤ることになります。

1 暴力団対策法(暴対法)の限界と役割

1992年(平成4年)3月に施行された「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(暴対法)」は、主に警察が指定暴力団員に対して直接的な規制を行うための法律です。

(1)規制の対象:指定暴力団員(組員個人)

(2)規制の内容:寄付金の強要、示談介入、不当利息を伴う債権取立てなど「11項目の不当な要求行為」の禁止

(3)現状(令和6年時点):全国には25の指定暴力団が存在します。

六代目山口組(兵庫県):1都1道2府40県に跨り、構成員約3,300人。
神戸山口組(兵庫県):1都1府2県に分布、構成員約120人。
その他の有力団体:福岡県の五代目工藤会、道仁会、太州会。東京都の稲川会、住吉会、極東会など、全国で約18,800人の勢力が確認されています。

しかし、暴対法はあくまで「組員の個別の不法行為」を止めるためのものでした。暴力団組織を経済的に支えている「一般企業からの資金流入」を食い止めるには、この法律だけでは限界があったのです。

2 暴力団排除条例(暴排条例)の画期的な仕組み

この限界を突破するために、2010年4月から2011年10月にかけて全都道府県で施行されたのが「暴排条例」です。暴排条例は、ターゲットを暴力団員から「彼らを利用し、利益を供与する企業や一般人」へと対象を180度転換させました。

(1)定義:暴力団を利用する者、暴力団の活動を助長する企業、一般人を規制対象とする。

(2)性質:暴力団員に利益(金銭だけでなく場所や物品も含む)を提供した側を罰する、あるいは社会的に公表することで、暴力団の資金源を枯渇させることを目的としています。

つまり、皆さんの会社が「脅されたから支払った」「付き合いで物品を購入した」という理由であっても、それが結果として暴力団を助長したとみなされれば、条例の網に掛かることになります。


LINEUP2 「密接交際者」と認定されることの恐怖

条例の鍵となるのは「密接交際者(共生者)」という概念です。企業や個人が、暴力団と親密な関係にあると判明すれば、この対象になるのです。

1 認定のプロセスと厳しいペナルティ

企業が暴力団と密接な関係にあると疑われた場合、まず警察や公安委員会から「関係遮断の勧告」を受けます。

(1)勧告に従わない場合:企業名、代表者氏名が自治体の広報やホームページで公表されます。

(2)公表後の末路

福岡県では、地元建設業者がこの公表を受けたことにより、公共事業の入札から排除されるだけでなく、民間金融機関からの融資打ち切り、既存取引先からの全契約解除が連鎖し、廃業・倒産に追い込まれた事例が実際に存在します。

一度公表されれば、もはや社会はあなたを「被害者」とは見てくれません。あなた自身が「反社会的勢力と一心同体の者(関係遮断対象者)」として認定され、二度と通常の経済活動に戻ることはできなくなります。

2 「知らなかった」が通用しない名義貸しの罠

暴力団員は現在、自分の名前では銀行口座も作れず、マンションも借りられず、携帯電話の契約すら困難です。そこで彼らは「名義を貸してほしい」と近づいてきます。

(1)名義貸し違反

暴力団員であることを知りながら名義を貸す行為、あるいは彼らに代わって契約手続きを行う行為は、条例違反に留まりません。相手が名義を偽って契約を締結させたとして、あなた自身が「詐欺罪」の共犯に問われるリスクがあります。

(2)指導と公表

悪質な場合は、前述の通り勧告・公表の対象となり、企業の社会的信用は一瞬で崩壊します。

3 私的な交際が会社を滅ぼす

「主要な取引先の役員が実は暴力団関係者だった」「学生時代の長年の友人が組員になっていた」というケースはどうすればよいでしょうか。

(1)真偽の調査

疑いがある場合は即座に調査を行い、相手に「反社会的勢力でない旨の表明・確約」を求め、応じない場合は取引を停止しなければなりません。

(2)頻繁な飲食の代償

相手が暴力団員と知りながら、頻繁に飲食やゴルフ、旅行を共にすることは、それ自体が組織に「威信」を与え、活動を助長しているとみなされます。たとえ金銭のやり取りがなくても、「密接交際者」として認定される十分な理由になります。


LINEUP3 取引先が「黒」だったら?現場で求められる具体的判断

もし、目の前の取引相手に反社会的な影を感じたとき、経営者はどのような基準で動くべきでしょうか。

1 利益供与のポイント:あなたの「何気ない注文」が活動資金になる

暴力団との関係が企業の存亡を左右する時代において、「知らぬ存ぜぬ」は通用しません。以下の行為は、条例における「利益供与」や「助長行為」の対象となる可能性があります。

(1)不当な取引

反社系企業から高額な酒を仕入れる、不要な観葉植物のレンタルを受ける。

(2)利便性の提供

暴力団の冠婚葬祭に宴会場を提供する、組事務所の改装工事を請け負う、組の名前入りの贈答品注文を受ける。

これらは、「商売だから」という理屈では守られません。暴力団の活動を助けることを「知って」行えば、即座に是正勧告の対象となります。

2 内部統制システムの欠如としての責任

何も対応しなかった場合、経営者は「内部統制システムを構築する義務を怠った」として、株主から責任を問われることもあります。反社チェックをルーティン化していないこと自体が、経営上の「注意義務違反」とされる時代なのです。

3 現場での具体的な対応策

では、まず何をすべきでしょうか。まずは以下の「スローガン」を社内に徹底させることから始めてください。

~暴排三則(基本スローガン)~
1. 暴力団を利用しない
2. 暴力団を恐れない、交際しない
3. 暴力団に金を出さない、事務所を作らせない

さらに実務的には以下の体制を整えます。

(1)暴排条項の導入

全ての契約書に「反社条項」を入れ、発覚時に無催告で解約できる権利を確保する。

(2)表明確認書の徴求

契約時、相手から「現在も将来も反社ではない」という書面を提出させる(努力義務規定)

(3)情報発信

自社HPやパンフレットに「暴力団排除」を掲げ、隙を見せない。

(4)協議会の活用

大規模な工事や開発を行う際は、近隣企業や警察と連携した「暴排対策協議会」を設立し、集団で防御する。

(5)反社と判明した場合の安全な「断り方」

万が一、相手が反社会的勢力だと判明して取引を中止する場合、「反社チェックに該当した」と事実をそのまま伝えてはいけません。「自社の審査基準によりお取引ができません」と伝えるのが鉄則です。「どんな基準か教えろ」と追及されても「審査基準は非公開です」という回答に留め、内容を明かさないことが大切です。強要される場合は直ちに警察へ通報しましょう。


まとめ

「私は被害者」という言い訳を捨てる勇気

第1号では、暴排条例がいかに企業側を厳しく律するものであるか、そして暴力団との関係がいかに致命的なリスクであるかを解説しました。

最も重要な教訓は、この条例が施行されたことで、「私は脅された被害者だ」という言い訳が通用しなくなったことを肝に銘じる必要があるということです。企業が暴力団に屈してお金を払うことは、そのお金が次の特殊詐欺や薬物取引の資金となり、さらなる被害者を生む手助けをすることに他なりません。

今の時代、暴力団との関係を断ち切ることは、単なる道徳の問題ではなく、会社と従業員の生活を守るための「究極の危機管理」です。何もしなかった結果、密接交際者として認定されれば、あなたが一生をかけて築き上げた会社は一晩で崩壊します。

次号では、これらのリスクを契約の段階で法的に封じ込めるための「反社会的勢力排除条項(暴排条項)」について、その具体的なメリット・デメリット、そして実際の契約書への盛り込み方について詳しく解説します。自社を守るための「最強の盾」をどう構築すべきか、共に学んでいきましょう。


今回のコラムは、以下の顧問の方にご監修いただきました。

西岡 敏成
ジェイエスティー顧問
・元兵庫県警警視長
・警備・公安・刑事に従事
・2002年日韓W杯警備を指揮後、姫路警察署長・播磨方面本部長を歴任
・元関西国際大学人間科学部教授

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